研究スタッフ紹介

朱 琳

 

“万巻の書を読み、万里の道を行く”

地域文化研究系

アジア・アフリカ研究講座

准教授
博士(法学)(東京大学)

― 研究の内容を教えてください。

1、専攻:アジア政治思想史、東アジ文化交流史; 2、問題関心:近代日中知識人の知的連鎖と文化交流(とりわけ、明治・大正期の日本思想と清末民国初期の中国思想の関連および影響関係); 3、主な研究テーマ:①中国史像と政治構想――内藤湖南と梁啓超との比較; ②大正期における日中の思想連鎖――「聯邦制」を中心に; ③近代日本の東洋史学の構築と日中知識人の文化交流――上海東文学社を手がかりに

― その研究を始めたきっかけは何ですか。

 私は中国東部沿海地域の江蘇省南通市で生まれ育ち、南京大学外国語学部で日本語を学びました。当時、英語以外にもうひとつ語学を勉強したいと思っていましたが、正直なところ大きな目標があって日本語を選択したわけではありません。けれど恩師の元で日本語を学ぶうちに、もっと日本のことを知りたいと思うようになり、北京日本学研究センター(北京外国語大学)の修士課程に進んで日本の思想史や美術史などを幅広く学び、日本についての見識を深めました。 修士課程を修了した後、主に外国語の本を扱う出版社に入社し、日本に関する書籍の編集に携わりました。一方、この間、母語および母国の文化をより深く理解したいという思いもあり、外国人に中国語・中国文化を教える国家資格の「対外漢語教師資格」を取得しました。中国では超難関と言われる資格ですが、試験勉強に励み、一発で合格することができました!仕事も楽しく順調でしたが、日本学研究をさらに深めたいという思いと、また、日本文部科学省による国費外国人留学生の選抜試験に合格したこともあり、出版社を辞めて日本にやってきました。 東京大学大学院法学政治学研究科に在籍して博士論文をまとめ、日本学術振興会(JSPS)外国人特別研究員を務めました。そして、神奈川大学外国語学部や東京大学東洋文化研究所に勤務したのち、東北大学に赴任し現在に至ります。博士課程修了後、帰国せずに日本に残る道を選んだのは、やはりもう少し研究を続けたいと考えたからです。 人生において、大きな目標に向かって計画的に歩む人もいますが、こうして振り返ると、私はこれまで人や物との出会いに恵まれ、そのときどきの自分の気持ちと自然の流れに身をまかせて歩んできたように思います。

― はじめに研究者を目指そうと思ったきっかけはどのようなことですか。

 専攻は「アジア政治思想史」で、主に内藤湖南(1866-1934)や吉野作造(1878-1933)など、明治~大正時代の知識人の政治思想を研究しています。けれど、中国と日本の近代史は解けがたく絡み合っているため、研究を続けているうちに、思想文化および人的交流のつながりの深さに気づかされました。 そして、日中の思想的連環に関心をもち始め、当該時期に日本と深く関わった、梁啓超(1873-1929)など中国の知識人の動向にも目を向けるようになりました。どちらか一方の思想研究だけでは見えてこないものが、双方の鏡に映し出されることで見え始め、それぞれのもつ意味をより明確に捉えることができるようになります。 研究手法の一つとしては、文献を読んだり、研究対象とする人物の故郷を訪ねたりしながら、その人の遺した足跡をたどるものです。たとえば地元の記念館で、これまで公開されていなかった資料を手に取って調べた結果、新たな事実を発見することもあり、歴史がそこにあると実感することができます。私が南京から北京、そして東京、さらに仙台へと場所を移して続けた研究の醍醐味は、このようなところにあるのかもしれません。

― 研究室(講座)のアピールポイントを教えてください。

 他の先生との合同ゼミも含め、現在担当している主な科目は「歴史学」、「地域研究のためのフィールドワーク」(オムニバス講義)、「アジア思想文化論Ⅱ」、「アジア・アフリカ研究特別講義」、「アジア・アフリカ研究特別研究」、「アジア・アフリカ研究総合演習」、「アジア・アフリカ研究特別演習」などです。授業では、日本と中国を比較したりしながら、さまざまなトピックを取り入れるよう心がけています。 学生の皆さんには、出会いと選択を大事にし、柔軟な発想で複眼的に物を見ながら、いろいろなことにチャレンジし、自分がやりたいことを見つけてほしいと思います。ほんとうに好きなことでなければ、継続することはできないからです。そして、迷ったり悩んだりしたときに人の意見を聴くことも大切ですが、最終的には自分で判断をしてください。自ら決めたことなら、自分の可能性を信じて頑張れます。これまで私もいくつかのターニングポイントで選択をしてきましたが、その場面ではいつも自分と向きあい、“最悪の結果を覚悟し最善の努力を尽くす”ことを心がけてきました。 中国に“読万巻書、行万里路(万巻の書を読み、万里の道を行く)”という言葉があります。勉強も必要だけれど、それと同じくらい経験も大事だという意味です。私自身も中国を離れて初めて、母国を客観的に見ることができるようになり、日本と中国両方の国から二つの視点で相手の国を考えることができるようになりました。皆さんもきっと自分を成長させてくれるなにかに出会えると思いますよ。

研究のキーワード

アジア政治思想史、東アジア文化交流史、近代日本の東洋史学; 内藤湖南、吉野作造、梁啓超・・・

主な著書・論文など

学術論文



  • 【中国語】「内藤湖南的中国史像――日本文脈中的時代劃分論」(「内藤湖南の中国史像――日本文脈のなかの時代区分論」)、汪暉・王中忱主編『区域:亜洲研究論叢』、2016年第2輯 総第6輯、北京:社会科学文献出版社、2017年4月、195-246頁。

  • 【韓国語】주린「근대 일본의 중국 인식-나이토 코난(内藤湖南)의 중국문화론-」. 동북아역사재단 엮음. 『연동하는 동아시아 문화』 (동북아역사재단 연구총서67). 서울: 역사공간. 2016년12월. pp.70~106.(「近代日本の中国認識――内藤湖南の中国文化論」)、東北亜歴史財団編『連動する東アジア文化』(東北亜歴史財団研究叢書67)、ソウル:歴史空間、2016年12月、70-106頁。

  • 「梁啓超における中国史叙述 ――「専制」の進化と「政治」の基準(二・完)」 『人文学研究所報』 第53号、 神奈川大学人文研究所 (2015.3 )、87-115頁。

  • 「梁啓超における中国史叙述 ――「専制」の進化と「政治」の基準(一)」 『人文学研究所報』 第52号、 神奈川大学人文研究所 (2014.8 )、95-115頁。

  • 「梁啓超における中国国家体制の構想 : 「自治」と「聯邦制」を手がかりに」 『東北アジア研究』 第16号、 東北大学 東北アジア研究センター(2012.3 )、45ー71頁。

  •  【中国語】「梁啓超的“革命”論」(「梁啓超の"革命"論」) 『東アジア文化交渉研究』 第5号 、関西大学文化交渉学教育研究拠点(ICIS) (2012.2 )、115ー129頁。

  • 「田岡嶺雲とその時代 ――ある明治の青春」 『近代世界の「言説」と「意象」 : 越境的文化交渉学の視点から』 関西大学文化交渉学教育研究拠点(ICIS)、2012.1、87-109頁。

  • 「中国史像と政治構想――内藤湖南の場合(五・完)」 『國家學會雑誌』 第124巻 第5・6号 、国家学会 (2011.6 )、61ー110頁。

  • 「中国史像と政治構想――内藤湖南の場合(四)」 『國家學會雑誌』 第124巻 第3・4号、 国家学会 (2011.4 )、56ー105頁。

  • 「梁啓超の「文明」認識およびその変遷」 『東アジア文化交渉研究』 第4号、 関西大学文化交渉学教育研究拠点(ICIS)(2011.3 )、193ー212頁。

  • 「中国史像と政治構想――内藤湖南の場合(三)」 『國家學會雑誌』 第124巻 第1・2号 、国家学会 (2011.2 )、65ー116頁。

  • 「中国史像と政治構想――内藤湖南の場合(二)」 『國家學會雑誌』 第123巻 第11・12号、 国家学会 (2010.12 )、1ー55頁。

  • 「二つの中国認識――吉野作造と内藤湖南」 『吉野作造研究』 第7号、 吉野作造記念館 (2010.11 )、15ー29頁。

  • 「中国史像と政治構想――内藤湖南の場合(一)」 『國家學會雑誌』 第123巻 第9・10号、 国家学会 (2010.10 )、1ー56頁。

  • 「湖南の思想形成――政教社との関連をめぐって」 『湖南』 第30号、 内藤湖南先生顕彰会 (2010.3 )、73ー82頁。


書評



  • 朱琳 「書評 山田智・黒川みどり編『内藤湖南とアジア認識 : 日本近代思想史からみる』勉誠出版、2013年6月 」 『東アジア近代史』 第17号 (2014.3 )、192ー200頁。

  • 朱琳 「学界展望<アジア政治思想史> 溝口雄三・池田知久・小島毅『中国思想史』東京大学出版会、2007年4月 」 『國家學會雑誌』 第124巻 第3・4号 国家学会 (2011.4 )、372ー375頁。


受賞歴



  • 第2回「吉野作造研究賞」優秀賞

  • 東京大学博士(法学)特別優秀賞

  • 第28回「京都国際文化協会賞」

東北大学研究者紹介

https://www.r-info.tohoku.ac.jp/ja/2f8344a34c45ca440d74d2f35e576ce2.html

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