研究スタッフ紹介

山内 玲

 

Better late than nothing.

地域文化研究系

ヨーロッパ・アメリカ研究講座

准教授
博士(人間・環境学)

― 研究の内容を教えてください。

 いやです。
 そんな簡単に自分の研究内容が紹介できるんなら、論文なんて書いちゃいませんし、そもそも簡単に説明できる研究なんて、内容が ないよう なものですから。

 ―はぁ?

 .........、わかりました、では概要を少しだけ。
 これまでの専門は英語圏米国文学でした。現在はスペイン語圏アメリカ文学を専門としています。より正確に言えば、どちらとも小説が専門となります。目下の研究対象はガルシア=マルケスの作品ですが、現在の関心はラテンアメリカ文学における肉体性(≠身体性)という問題にあり、それがいかにして言語表現や小説の構造に具現されているか、という観点から研究を行っています。

― その研究を始めたきっかけは何ですか。

 これがきっかけだった、と断定できる事柄は存外ないもので、偶然の連続に必然性を事後的に見出していくもんじゃないかと思いますが、今から振り返って起点として意味づけたい出来事があります。

 ―で? 何ですって?

 それが人の話を聴く態度ですか。いいから聴いてくださいよ。
 もともと私は英語圏の米国文学を専門としていましたが、学生時代は、演習室での購読や演習とは別に、英語のお勉強の一環として、大量にペーパーバックを読むように心がけていました。今だったら多読といえばいいのでしょうが、もともと英語で書かれた文学作品とは異なり英訳は読みやすいという話を聞いて、英訳の小説をよく読んでいました。当時はまだネット書店が密林のように蔓延っている時代ではなかったので、洋書店の棚に並んでいるガルシア=マルケスの英訳を中心に、ラテンアメリカ文学の英訳を購入し、継続して読んでいました。今でもよく覚えているのは、店員さんとガルシア=マルケスの話をしていた時に、スペイン語の原書だと文章が魔術のようだという話だと聞いたことです。その頃はスペイン語で読むことはできなかったのですが、その言葉は記憶の片隅に残っており、後に原書で読み、研究に結び付くきっかけになっていたのではないかと思います。
 

― はじめに研究者を目指そうと思ったきっかけはどのようなことですか。

 あのー、研究者って目指すもんでしょうか...研究分野で違いはあるにせよ、大学院に進学し研究をひたすら続けて、研究を続けるための足場を整える過程で研究職についていたということはありうるでしょうが、「研究者になりたい」と考える人って、どの分野でも研究者には向いていないと思います。研究を志す人は、こうした質問をする性根を問いなおすところから始めてください。

 ―......いやいや、単なる言葉のあやですって。話を続けてくださいよ。

 「研究者を目指す」なら、言葉は正確に使うように心がけてくださいね。うまい言い方ではないですよ。
 とはいえ、私自身は大学院に進学した当初は「研究をする」という意識は稀薄で、ただひたすら小説を読み続けられる環境を求めていました。そうしたぬるい意識で進学した輩が研究の場である大学院で返り討ちにあったのは言うまでもありませんが、当時よく考えていたのは小説を「読む」ことと「研究」することの違いです。小説は基本的に読者が読みたいときに読み、つまらないと思えば放り投げてよいジャンルの書物だと思うのですが、研究の対象として小説を読むことは読み手の好みや気分、感性に左右されて終わるものではなく、その作品を構成する諸々の要素に注意を払って読む営みであり、同時にある作品を面白い/つまらないと判断する自分の価値基準もまた問われるべきことではないか、といったことは文学研究の末座に連なる者として努めて考えてきました。今思えば、こうした思考がきっかけだったとは言えるかもしれません。

― 研究室(講座)のアピールポイントを教えてください。

 ありません。というのは嘘で、これまでの言葉の端々から読み取ってください。

 ―回りくどいことはいいから、端的に教えてくださいよ。

 仕方がないですね。
 私自身の研究のディシプリンは英語圏米国文学研究を基盤とし、スペイン語圏アメリカ文学の研究へと展開しているわけですが、学際的な大学院を出ており、多種多様な研究分野と接する中で研究者として研鑽を積んできました。その経験も手伝って、文学研究以外の隣接領域も目配りはしており、文学以外でも、文献をベースとする範囲での研究の指導は応相談となります。
 とはいえ、外国語の文献を扱う以上、文献を丹念に読む作業とそれに伴う語学の力は要求されます。とりわけ文学作品を読み解く上で一字一句精読していくことは不可欠です。何はともあれ、細部に宿る作品の魂に触れて快楽を覚える読み手は歓迎します。
 講座としては、ヨーロッパ・アメリカという枠組みで多様な領域への関心を持つ人々が集まります。したがって、自分の研究テーマに没頭しながらも、異なる学問領域への興味を持つことができる人は、この講座は向いているんじゃないかと思います。もう一言付け加えると、研究上の問いに対する答えを追い求めていくだけでなく、問いを構成する前提やその価値基準までを問う姿勢、これは学際という、いうなれば異種格闘技的な異なるディシプリンの対決の場において重要な意味を持ちます。
 ちなみに、こうした考えを含意していたのが、いちいちイチャモンつけなきゃ質問に答えられないのかよ、とツッコミたくなる上記の回答であったことに気付いてくれた人も歓迎します。もちろん、あなたはわかっていましたよね。

 ―とりあえず、話が長くなる、暑くるしい研究室だということはわかりました。

研究のキーワード

アメリカ小説、スペイン語圏アメリカ文学、ラテンアメリカ文学、英語圏米国文学

主な著書・論文など

以下はスペイン語圏アメリカ文学の研究業績です。英語圏米国文学のものは、東北大学研究者紹介をご覧ください。

"Carnivores and Cannibals: Human Animality in Faulkner’s The Hamlet and García Márquez’s Cien años de soledad." Faulkner and García Márquez (Christopher Riegar and Andrew B. Leiter, ed., Southeast Missouri State University Press, 2020) , pp.89-107.

「『百年の孤独』の豚の尻尾再考:先住民の周縁化をめぐる動物化の主題と修辞 」『ラテンアメリカ研究年報 』第40号(2020), pp.13-41.

東北大学研究者紹介

https://www.r-info.tohoku.ac.jp/ja/0fa7cbd1c5f4b290939f6f86e32a095c.html

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