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人がことばを話したり理解したりしようとするとき、脳の中で何が起こっているのかは、長い間の謎でした。それがここ10年ほどで、機能的核磁気共鳴画像法(functional Magnetic Resonance Imaging: fMRI)、脳磁図 (Magnetoencephalography, MEG)、ポジトロン断層撮影法(Positron Emission Tomography: PET)などの非侵襲的な脳機能観測技術を応用して、ことばを用いるとき脳のどの部分が働いているかを画像として見ることが可能になってきました。これまでの蓄積にこの技術を加味して、ブラックボックスと見なしてきた脳の中にある言語のメカニズムを明らかにしようというのが「言語・脳・認知総合科学」です。

もともと脳と言語の関係は、失語症などの言語障害の研究が主でした。ことばに障害がある患者を調べて、それが脳のどの部分の障害によるものかを探っていたのです。

fMRIの技術を用いて、人がことばを理解し話すときに脳がどう動くのかがわかれば、言語障害などのリハビリ療法の改善に生かせます。高齢化が進む現在、脳を鍛えて言語障害を防ぐ方法を見つけることも求められています。

言語と脳の関係は外国語の習得にも役立ちます。言語学では、母国語話者の直観に基づいて言語の文法や意味を分析し、言語モデルを作ってきましたが、最近はfMRI技術の応用で、文法と意味の理解は、それぞれ脳の違うところで行なわれているという興味深いデータも出てきています。新しい実験科学としての言語科学が生れつつあり、将来この分野が発展し、母国語と外国語を学ぶ時の脳の働きの違いがわかれば、国際化時代に対応できる効率的な外国語学習法を開発する道がひらかれています。

脳のメカニズムを人工知能に応用すれば、ことばがわかるロボットの可能性も考えられます。ロボットの脳に言語機能を備えることによって、体が不自由なお年寄りが声で頼むと、面倒な操作なしで介護してくれる福祉ロボットができる日も夢ではないでしょう。

「言語」が関連する分野はこのように言語学、心理学、医学、情報処理学など文系・理系の学問が深く関わっています。文・理の壁を越えた言語科学の研究は国際的にも珍しいのですが、東北大学大学院国際文化研究科の言語科学研究者を中心として、これに未来科学技術共同研究センター、情報科学研究科、工学研究科、医学系研究科、文学研究科の言語学、心理学、医学、工学の研究者が連携して「脳の中のことば」に迫ります。




[1] 広範な学際的言語・認知科学研究拠点―新研究領域の創成

言語学を中核にし、脳科学、心理学、情報工学など言語科学関連分野を包含した研究者集団による広範な学際的拠点を形成し、ヒト脳特有の言語の仕組みの理解、すなわち人間対人間のコミュニケーションにおける言語の獲得・運用・喪失過程の解明、およびその人間対機械の対話への応用を目的とした新しい研究領域の創成を目指しています。人間の本質を言語活動と捉え、文理系・学際融合型研究体制の中で若手研究者養成による新研究領域の創成につなげたいと考えます。

[2] 学際的文理融合型体制―共同研究の相乗効果

理論言語学的研究を脳機能イメージング学、音声言語処理工学、認知心理学の実験科学的方法論で支える体制をとっています。言語理論の脳内表象データによる評価とそのフィードバックによる理論の再構築というサイクルは、言語学と脳機能学それぞれに相互的に自分野だけの研究では到達できない成果をもたらすと考えられます。このような現場での学生の教育は、次世代の研究者を育成する観点から新学問分野の創成につながると確信します。