日本語名詞修飾構造におけるフレームの統合


松本善子
スタンフォード大学

 

複合名詞や主題文構造と同様に、日本語の名詞修飾構造は、主要な構成要素間の意味的統語的関係が明示されていない上、意味・統語的関係も多様で、従来の統語論アプローチでは必ずしも十分な分析ができない。それにもかかわらず、日本語母語話者は名詞修飾構造を理解し生成している。

本発表の対象とするのは[[述語(終止形)]名詞]]という構造を持つ日本語の名詞修飾構造である。この構造には、関係代名詞のような主要名詞と修飾節の述語の文法的、意味的な関係を明示するマーカーが存在しない。日本語の名詞修飾構造には統語的に英語の関係節と同格節と平行するものもあるが、その一方、通常の関係節、同格節構文の範囲内には収まらないもの、または両方に当てはまるものが実際の例に多々あることが、Matsumoto(1997)等で明らかにされている。

ここでは、これまでの発表者の分析に基づきそれをさらに進展させ、統語的規定が弱い日本語の名詞修飾構造を検討する。具体的には、1)認知に基づくフレーム意味論と語用論的観点が日本語の連体修飾構造の意味解釈に決定的な役割を持つこと、2)並置された二つの構成要素によって想起されたフレームが統合される際の様々な要因の相互関係作用が幅広い言語データを説明し得ること、を述べる。