言語心理学的アプローチによる統語解析メカニズムの解明
―文のスクランブル効果および終助詞による空主語の限定―
The syntactic parsing from the psycholinguistic perspective:
Scrambling effects on sentence processing and the clarification of empty subjects by ending particles

広島大学 玉岡賀津雄

言語心理学では,統語解析のメカニズムを考察するために文理解に要する時間と誤答率を指標として実験研究を展開してきた.文処理の実験的な証明で常に頭を悩ませるのは,比較する条件が対になっているかどうかであ る.講演では,綺麗な対によって比較検討が可能な二種類の研究例を紹介する.一つは,正順とかき混ぜ語順の比較によるスクランブル効果を使った研究であ る.語順の実験は,文の構成要素が同じであるため言語心理学的な実験パラダイムに最適であ る.文のスクランブル効果を考察することで,日本語母語話者が文処理において依拠している基本情報について考察したTamaoka, Sakai, Kawahara & Miyaoka (2003, TPC 2003発表),同じパラダイムで韓国語のスクランブル効果について考察したTamaoka & Lim (未発表),動詞句の内外の移動(verb phrase internal/external movement)および移動距離によるスクランブル効果の違いを考察したTamaoka, Kawahara & Sakai (2003, 認知心理学会2003発表),場面を描いた絵をプライムしてから文を提示した場合のスクランブル効果を測定した玉岡・宮岡・河原(2003, 日本心理学会2003発表),三項動詞の種類によるスクランブル効果の違いを考察したKoizumi & Tamaoka (2004, 『言語研究』印刷中)など,一連のスクランブル効果を利用した言語心理学的な実験研究を紹介する.もう一つは,終助詞の研究であ る.終助詞は,文の最後に「ね」や「よ」などを付加するだけであるため,やはり文の構成要素は変わらない.しかし,文には「記されていない要素(unwritten elements)」である空主語が,終助詞によって限定されることがある.その違いを考察することで,終助詞の機能について考察した坂本・玉岡・松本(2003, 日本言語学会2003秋季大会発表)を紹介する.言語心理学的なアプローチは,実験条件が許せば,ヒトの脳内での文処理を考察することができる一つの方法であ り,言語学の研究にもさまざまな応用が可能である.