照応解決の認知過程:心理学的実験と計算モデル化
Psychological experiments and computational modeling for the cognitive
process of anaphora resolution


阿部純一(北海道大学大学院文学研究科教授)
Professor Jun-ichi Abe
Department of Psychology, Graduate School of Letters, Hokkaido University

 

文章の中には、また会話の中には、「それ」、「彼」、「あそこ」などの表現が頻出する。そして、一般的にいえば、読み手あるいは聞き手は、それらの表現が何を指し示しているかを容易にそして瞬時に理解することができる。それはほとんど意識的努力の必要のない心的活動であり、そこに働いている心内の処理原理も直感的にはさほど複雑ではないように感じられる現象であるといえる。しかしながら、この"照応解決"の認知過程の特性とメカニズムについては、認知心理学においても従来から実験的アプローチによっていくつかの知見が蓄積されて来ているものの、まだほとんど解明されていない状況にある。本講演では、照応解決過程に関して従来行われて来た心理学的実験研究の知見を紹介した上で、それらの知見を幅広く説明し得るような認知モデル化の試み(講演 者らによる計算モデル化の試み)を紹介してみたいと思う。