共催:
東北大学21世紀COEプログラム(言語認知総合科学)
日本国際文化学会




第4回 
「言語・脳・認知」シンポジウム

「アジア・太平洋地区における言語の多様性と今後の展望」

日時: 2006 年 7 月 15 日(土) 16:00-18:00
場所:東北大学川内北キャンパス
地図・アクセス) (問い合わせ先)

来聴歓迎

なお、このCOEシンポジウムは第5回日本国際文化学会全国大会(於:東北大学)での同名の共通論題セッションとして開催されるものです。同学会大会は参加費が、一般:2,000円、学生:1,000円です。



[プログラム]
講演題目・パネリスト
 ワロゴ語(豪州)の復活の試み: 
     角田太作(東京大学・日本言語学会「危機言語」小委員会委員) 
(オーストラリア諸語)
 フィリピン諸言語の言語状況と文法の多様性: 
     北野浩章(愛知教育大学) (フィリピン諸語)
 言語と文化の出会い:南アジア諸語における動詞「食べる」の対照を通じて: 
     パルデシ・プラシャント( 神戸大学)
(インド諸語)

司会
     堀江薫 (東北大学) (言語類型論)
 

[開催趣旨]
近年、「英語」の世界共通語化(globalization)が進んでいる半面、母語話者の高齢化や英語に代表される「大言語」の圧力で、少数民族の言語の多くが絶滅の危機に瀕しています。このような現状に対処すべく、世界の各地で「危機に瀕した言語(危機言語)」(endangered languages)の記録、保存、再生に関わる研究・教育・啓蒙活動が行われてきています。日本国内でも、日本言語学会に「危機言語」小委員会が設けられ、フィールド言語学者を中心に、アジア・太平洋地域での言語の多様性を保存・維持するための試みが行われています。
本セッションでは、オーストラリア原住民諸語のフィールド調査に基づいた他動性、所有構文といった文法現象の類型論的研究で多くの業績がある角田太作先生、フィリピン諸言語のフィールド調査に基づく文法と談話構造の研究で新境地を開拓しつつある北野浩章先生、言語類型論と認知・機能言語学を複合した観点から南アジア諸言語の文法現象の分析を行っているパルデシ・プラシャント先生という3名の専門家の発表を通じて、アジア・太平洋地域の言語の構造的な多様性と、それらの地域の言語を取り巻く文化・社会的状況、危機言語復活運動の一端を紹介します。

 

[講演要旨]

ワロゴ語(豪州)の復活の試み: 角田太作(東京大学・日本言語学会「危機言語」小委員会委員)

発表者は、メルボルンのモナシュ大学の大学院生であった時、1971年から1974年にかけて、クイーンズランド州北部のワロゴ語(Warrongo)を、最後の話者Alf Palmerさん(ワロゴ語名:Jinbilnggay)から記録した。1981年にAlfPalmerさんが死去し、ワロゴ語は死滅した。 しかし、20世紀の末に、ワロゴ語を復活する運動が始まり、発表者は現地から協力の依頼を受けた。2000年と2002年に現地を訪問して、復活運動の打ち合わせを行った。2002年3月に、第1回目のワロゴ語の授業を行った。その後もワロゴ語の授業を続けている。祖先の言語を少しでも話すことは、この民族のアイデンティティーとして重要である。また、この言語には「統語的能格性」という、世界でも稀な文法現象があった。このことは、ワロゴの人達の誇りなっている。更に、世界でも稀な現象を学習するということ は、言語習得の観点からも、興味深い。ワロゴ語復活運動は非常にゆっくりではあるが、成果が挙がっている。2006年3月の時点で、単語を使える人は5人から10人位いる。非常に簡単ではあるが、文を言える人もいる。本発表では発表者が関わってきたワロゴ復活運動とワロゴ語の文法の特徴を紹介する。

 
フィリピン諸言語の言語状況と文法の多様性: 北野浩章(愛知教育大学)

この発表ではまず、現在のフィリピンの言語状況を報告する。国語としてのフィリピノ語(ピリピノ語)とタガログ語やその他の諸言語との関係、英語の地位と役割、多言語使用、コードスイッチング、危機言語の状況などについての概説的な説明をおこなう。 第二に、類型論的に特異なものとされるフィリピン型言語の文法、とりわけヴォイス(受動態などの「態」)に関わる側面であるが、実はそれほど特異ではない、ということを論じる。これまでの研究で特異とされた理由や、最新の研究のいくつかのアプローチを紹介する。タガログ語やカパンパンガン語などを対象に、フィリピンの諸言語の多様性と、台湾やインドネシアの言語とも通じる普遍性を考える。

 

言語と文化の出会い:南アジア諸語における動詞「食べる」の対照を通じて: パルデシ・プラシャント( 神戸大学)

伝統的に言語類型論的研究の目標は自然言語間における可能なバリエションの限界を究明することであった。近年,その目標は,論理的に可能な自然言語の限界を求めることから,世界の言語間に実際に見られる多様性のほうへと移り,なぜこのような多様性が見られるかが研究の焦点となってきている(Nicholos 1982, Bickel Ms.)。 本発表では南アジア諸語における「食べる・食う」という動詞を含む表現(例えば,日本語の「小言を食う,パンチを食らう,などのようなもの)の対照研究を通じて,南アジア諸語に見られる類似点や相違点はペルシアという異文化との歴史的な接触の産物であることを明らかにする。また言語の総合的な理解のために,言語内の要因のみならず歴史・地理・社会・文化などいった言語外の要因も視野にいれる必要があることを主張する。



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東北大学21世紀COEプログラム(言語認知総合科学)事務局
(東北大学大学院国際文化研究科内)
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