東北大学21世紀COEプログラム(人文科学)「言語認知総合科学戦略研究教育拠点」
研究成果報告会

2007年2月28日(水)9:30-17:30
東北大学川内北キャンパス・マルチメディア教育研究棟6階ホール


プログラム

9:30-9:35 主催者挨拶: 堀江 薫 (「言語・認知総合科学戦略研究教育拠点」リーダー、 国際文化研究科教授)
9:35-9:45

来賓ご挨拶: 野家 啓一(東北大学副学長)

セッション1
 司会:川島 隆太(脳マッピング学ユニットリーダー 、加齢医学研究所教授)
9:50-10:10 生田 奈穂 (「言語・認知総合科学戦略研究教育拠点」フェロー)
日本語文のオンライン処理に関する認知脳科学的研究
10:10-10:30 横山 悟 (国際文化研究科D3・脳マッピング学ユニットRA)
外国語学習者の語彙理解に関する神経言語学的研究
10:30-10:50 ジョン・ヒョンジョン (国際文化研究科D3・学術振興会COE特別研究員)
脳科学的アプローチによる第二言語文処理研究
セッション2
司会:小泉 政利(生成言語学ユニットリーダー、文学研究科助教授)
11:00-11:20 金 情浩 (日本学術振興会特別研究員・前生成言語学ユニットRA)
日本語の「かき混ぜ語順文」処理の脳内基盤
11:20-11:40

鈴木 大輔 (情報科学研究科D3・認知心理学ユニットRA)
注意機能尺度開発とその予測妥当性の検証

11:40-12:30 昼休み
12:10-13:40
ポスター発表 :

 

大竹 塁(国際文化研究科D2・前計算言語学ユニットRA)
論理文法による日本語文法の記述
岡田 和枝 (医学系研究科D3 ・神経言語学ユニットRA)
パーキンソン病における情動を付加した物語の記憶の検討
カウル ギー(国際文化研究科専門研究員・同研究科博士課程修了)
アジュクル語の語りに現れる語り手と聞き手の協力過程の分析
菊池 修 ( 情報科学研究科D2 ・計算脳科学ユニットRA)
海馬切片標本における連想記憶的神経活動の形成
金 廷a(国際文化研究科D1・文部科学省奨学生)
名詞化述語のテキスト機能に関する対照言語学的研究−日本語の「のだ」と韓国語の「 kes-ita 」を中心に−
久慈 達也 (国際文化研究科D3・言語類型学ユニットRA)
インドにおける大衆宗教画についての思想史的研究
小林 昌博 (鳥取大学専任講師・前計算言語学ユニットRA)
動的統語論にもとづく日本語の文解析と実装の研究
蘇 雅玲(国際文化研究科D2・前計算言語学ユニットRA)
中国語母語話者による格助詞習得と述語の他動性の相関
平 香織 (沖縄国際大学専任講師・前認知言語学ユニットRA)
現代韓国語の意志形‘ -lkey ' , ‘ -llay 'に関する機能論的研究
高橋 慶(国際文化研究科D1・計算言語学ユニット)
作業記憶に基づく活性度文処理モデル
高橋 幸 (熊本大学専任講師・前計算言語学ユニットRA)
Generative Lexicon の枠組みに基づく辞書の構築と合成語の意味解析への利用
中村 ちどり (岩手大学助教授・国際文化研究科博士課程修了)
日本語における数量の指定に関する意味論的研究
長谷川 真吾(情報科学研究科D1・情報セキュリティ学ユニットRA)
量子計算機時代における形式言語の応用に関する研究
野瀬 昌彦 ( 日本学術振興会特別研究員)
格と比較構文の間言語的多様性に関する類型論的研究
三村 敬之 (情報科学研究科D1・機能言語学ユニット)
英語における重名詞句転移構文の左方移動分析
森 奏子(国際文化研究科D3・認知言語学ユニットRA)
クメール語の2種類の命令表現の使い分けに関する機能言語学的研究
森本 智(国際文化研究科D1・認知言語学ユニット)
主節動詞句の処理が名詞句内部の統語処理に与える効果
若生 正和 (大阪教育大学専任講師・前認知言語学ユニットRA)
過去時点の副詞と共起する韓国語動作継続相形式‘-ko issta 'の機能言語学的分析

セッション3

司会:吉本 啓 (計算言語学ユニット・国際文化研究科教授)

13:40-14:00 黒木 暁人 (国際文化研究科D3・前 日本学術振興会COE特別研究員)
日本語の句構造と移動の方向性に関する研究:右方転移文の左方移動分析
14:00-14:20 井土 愼二 (「言語・認知総合科学戦略研究教育拠点」フェロー)
中央アジアにおける言語接触の記述
14:20-14:40 廣井 富 (岩手県立大学客員教員・前COEフェロー)
ロボットアバタを用いたユーザ親和性向上に関する研究
14:40-14:50

ご挨拶:  佐藤 滋(東北大学総長特任補佐・COE事務局長)

 
(外部評価委員会)
15:00-16:00 総括質疑
16:00-16:40 審査委員ディスカッション
16:40-17:30 講評
 
発表要旨
 
 

生田 奈穂
日本語文のオンライン処理に関する認知脳科学的研究

本研究では、 fMRI を用いてSOV、OSV文を理解する際の脳活動を計測した。その結果、他動詞が提示されるまでは主語や目的語といった文法役割よりもむしろ呈示される順番に依存した脳活動がみられた。また統語処理に関わると言われている Broca 野が SOV, OSV ともに文頭の名詞句を認知した際は統制課題よりも強い賦活化はみられず、二番目の名詞句が認知されたときに強く賦活化したことから主語と目的語が両方揃ったときに統語構造が作られると考えられる。

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横山 悟
外国語学習者の語彙理解に関する神経言語学的研究

本研究では、脳機能イメージングを用いることにより、実際に語彙を理解しているときの学習者の脳内での活動を捉えることで、母語話者と学習者の間で、語彙の理解の仕方が同じなのか異なるのか、という点を検証した。その結果、母語話者と学習者は異なる方法で語彙を理解しており、また外国語と母語の書記体系が異なる際には、語彙の読みの点で処理が困難になるということが明らかになった。この結果から、外国語の語彙を教える際、学習者の母語における書記体系の影響を考慮する必要があることを示唆する。

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ジョン・ヒョンジョン
脳科学的アプローチによる第二言語文処理研究

本発表では母語と第二言語間の類似性が第二言語習得メカニズムにどのような影響を及ぼすのかを、脳科学的アプローチに基づいて調べた 2 つの実証的研究を紹介する。英語と日本語を第二言語として習得している韓国語母語話者と中国語母語話者を対象とし、文処理時の脳活動を測定する実験を行った。その結果、母語と第二言語間の類似性が第二言語の処理に関与する神経基盤に重要な役割を果たしていること、母語と第二言語の文法的な相違点に応じてその処理に特化した脳機能モジュールが第二言語処理時に必要とされる、ということが示唆された。

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金 情浩
日本語の「かき混ぜ語順文」処理の脳内基盤

日本語の基本語順文とかき混ぜ語順文の処理に関しては、これまで主に言語理論や心理行動実験の観点から議論されてきた。本発表では fMRI という新しい手法を用いて認知脳科学の観点から語順による文処理の違いについて考察する。特に日本語他動詞文における「かき混ぜ」の処理を司る脳内神経基盤を同定し、その性質を解明するための基礎研究の成果について報告する。

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鈴木 大輔
注意機能尺度開発とその予測妥当性の検証

本研究では、日常生活場面を設定状況として、健常者の注意機能を測定する注意機能尺度の開発を行った。その結果,注意の分割能力に関わる@分割尺度、失敗行動傾向や衝動性に関わるA衝動性(多動性)尺度、注意の切り替えに関わるB切り替え尺度から構成される注意機能尺度を開発した。さらに各下位尺度に対応する注意関連課題をそれぞれ設定し、機能的MRIを用いて下位尺度と注意関連課題中の行動指標・脳賦活部位との関連について検討した結果、予測妥当性は部分的に検証された。

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黒木 暁人
日本語の句構造と移動の方向性に関する研究:右方転移文の左方移動分析

本発表では,変形生成統語論の枠組みに基づき日本語の右方転移文を考察する。そして,従来右方への移動が関与すると指摘されてきたこの構文が,左方移動の一例として分析されるべきであると主張する。帰結として,本分析は左方への移動を言語に唯一の移動操作と位置づける反対称的統語理論(Kayne1994)に合致すると述べ,さらにこの理論の下位概念となる Kayne流のC統御,主要部後置型言語における目的語の義務的な移動等が日本語の統語構造において極めて重要に機能すると論じる。

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井土 愼二
中央アジアにおける言語接触の記述

本報告では、中央アジアにおける言語接触の研究を簡介する。ウズベク語やロシア語と言語接触しているタジク語方言で最近の数世代で起こった言語の変化を記述した結果、形態や統語のみならず音素の数にも変化が見られることがわかった。言語接触によってその発生もしくは保持が促されたと見られる音韻、語彙、形態、統語的特徴を説明する。

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廣井 富
ロボットアバタを用いたユーザ親和性向上に関する研究

産業用ロボットとは違い、人間共存型ロボットには親和性が求められる。従来の方法は外装を工夫する、動きを滑らかにする、ことなどで親和性の向上を試みたが、本発表ではロボットアバタという概念について述べる。ロボットアバタはロボット本体のアバタという考えで、そのアバタの動きにより親和性の向上を図る。本発表ではロボットアバタを用いた対話時の親しみ感の向上、さらに応用例として動作予告、指差し行為について述べる。

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大竹 塁
論理文法による日本語文法の記述

本研究は Multimodal Type Logical Grammar (Moortgat 1997, Morrill 1994) に基づく日本語文法の記述を目的とする。特に、意味計算上の副作用や評価順序といった要素を扱うことができる継続モード(Barker and Shan 2006, Shan 2005) の導入により、日本語における量化のスコープと語順の関係、および取り立て助詞の意味の分析等を示す。

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岡田 和枝
パーキンソン病における情動を付加した物語の記憶の検討

言語性記憶の研究において、情動を付加した物語の記憶はそうでないものよりも良好であると言われている。パーキンソン病患者(PD群)及び健常被験者(NC群)に対し、物語を用いた情動記憶課題を行った。その結果、 NC群では中立的内容の物語よりも情動的物語の想起が良好であったが、PD群ではどちらの成績も同等であり、情動による記憶の強化がみられなかった。これはPD群における扁桃体の機能不全に関係している可能性があることを述べる。

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カウル ギー
アジュクル語の語りに現れる語り手と聞き手の協力過程の分析

本研究では,中央アフリカのコートジボワールで話されるアジュクル語における,物語の語りの中に見られる談話の組織化について論じる.アジュクル語に特有に見られる物語の様子をフィールドワークを通して調査した.その結果,物語の聞き手は単なる受動的な聞き手とはならず,語り手の語る物語に対して,それに興味を抱いたり,理解したり,評価したりする際,語り手の聞き手の間にある種の協力関係が成立することが判明した.

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菊池 修
海馬切片標本における連想記憶的神経活動の形成

脳の海馬神経回路は連想記憶の形成に重要な役割を果たしていることが多くの研究により示唆されきた。これを局所回路活動のレベルで実験的に検証するため、モルモットの脳から摘出した海馬のスライス標本を用い、局所刺激で誘発される神経細胞の活動を多点同時記録した。二箇所同時刺激に伴って,各神経細胞の刺激反応特性が活動依存的に変化することが明らかになった。この結果は、海馬局所神経回路が自己組織的メカニズムによって連想記憶を形成可能であることを示唆している。

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金 廷a
名詞化述語のテキスト機能に関する対照言語学的研究−日本語の「のだ」と韓国語の「 kes-ita 」を中心に−
日本語には文末に「ことだ」「わけだ」「のだ」など一語化した名詞化述語(nominal predicate)が多く存在する。 その中で,特に「のだ」は文脈によって多様な意味を持っているため多くの研究が行われてきた。本研究では,日本語の「のだ」とそれに対応する韓国語の名詞化述語「kes-ita」を取り上げて,言語資料(小説データ) に現れる両言語の形式の使用頻度及び対応関係を明らかにする。

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久慈 達也
インドにおける大衆宗教画についての思想史的研究

インドの近代化とともに発達してきた大衆宗教画は、人々の神格に対する知覚を劇的に変容させた。多様な言語をもつインドにおいて、印刷媒体による視覚表現は言語的差異を越えて人々に共通認識を与えるものとして今日でも重視されている。本研究は、大衆宗教画の表現様式の成立過程を外観するとともに、その在り方に批判的であった思想家の視点に注目して分析することで、「近代」の一事象としての複製技術について新たな側面から考察しようと試みるものである。

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小林 昌博
動的統語論にもとづく日本語の文解析と実装の研究

本研究では、動的統語論(Dynamic Syntax)にもとづいて単語の入力順に文を解析し論理式を出力するモデルを構築し、prologを用いた実装を行っている。具体的には数量詞の遊離構文など語順に関する現象を統語的な情報の未指定 (underspecification) を利用することで説明できること示している。また実装の際に問題となる文解析の効率性の観点から、解析状態の推移規則を効率よく適用する規則を提案している。

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蘇 雅玲
中国語母語話者による格助詞習得と述語の他動性の相関

他動性およびプロトタイプの視点にもとづいて、母語に格助詞体系が存在しない中国語母語話者が格助詞を習得していく過程をアンケート調査を通じて考察する。調査の結果、意味的に他動性の高い出来事の他動表現が習得しやすいという結論が得られた。また述語の他動性が弱いものほど、対象に必ずしも影響を及ぼさないことに加えて、日本語での表現も「を」「に」の両方を用いることが多くなるため、習得が徐々に困難になり、「を」「に」の混用が顕著になることが明らかになった。

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平 香織
現代韓国語の意志形‘ -lkey ' , ‘ -llay 'に関する機能論的研究

本研究では話し手の意志を表す終結語尾‘ -lkey ', ‘-llay 'を取り上げ両形態の違いを考察した。その結果,‘ -lkey 'は「話し手の未来の行為が聞き手に利益となるという前提で使用される」という特徴づけがなされてきたのに対し,‘-llay'は「聞き手に同調されにくい話し手の意志を表す」際に使用されることを示した。また日本語「しよう」との対照を試み,「しよう」は対話的・非対話的な環境で使用できるが,‘ -lkey ', ‘-llay 'は対話的な環境でのみ使用されること,‘ -lkey ', ‘ -llay 'には「しよう」に見られるような意志から勧誘への意味拡張が見られないことを指摘した。

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高橋 慶
作業記憶に基づく活性度文処理モデル

従来の理論言語学研究においては、言語の持つ構造性を仮定することで様々な言語現象に対する説明に成功してきた。しかし一方で語順によってのみ容認性が予測できると思われる現象も存在し、これらについて理論言語学的分析では困難である。そこで本研究では、これら一連の問題を文法ではなく心的な処理器の問題とし、「作業記憶に基づく活性度文処理モデル」を提案することで問題の統一的解決を試み、同時に文法とのインタラクション構築を目指してきた。本発表では、本研究のこれまでの成果報告と、今後の展望について発表する。

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高橋 幸
Generative Lexicon の枠組みに基づく辞書の構築と合成語の意味解析への利用

本研究の目的は、第1にGenerative Lexicon (Pustejovsky,1995)の枠組みを用いて合成語を処理するのに適当な辞書を構築すること、第 2 に合成語の多義性のメカニズムを解明することである。前者に関しては、語幹の持つ語彙情報から合成語を構成的に組み上げるモデルにより、限られた辞書エントリで多様な合成語の意味解釈が可能となった。後者に関しては、文脈に応じて1つの意味から別の意味を動的に生成させる意味操作により、語の多義性を説明することができた。

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中村 ちどり
日本語における数量の指定に関する意味論的研究

「学生 3 人が来る」「本が一冊もない」等の文における数量詞は、述語の性質を満たす主語の数を表わす。このような働きを持つ数量指定の語句は、一般量化子理論において限定詞として研究されてきた。日本語の意味的な限定詞の特徴は、統語的に名詞句内に現れるもののみでなく、副詞句や動詞句、あるいは名詞句+否定辞等によって指定されるものが多いことである。本研究ではこれらの意味的限定詞の構成について述べる。

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野瀬 昌彦
格と比較構文の間言語的多様性に関する類型論的研究

本研究では,格の数と比較構文の比較対象を表すマーカーについていくつかの言語のデータを収集し,それらの形式と意味に注目する.世界中の言語構造に関するデータベースである「ワールドアトラス」 (World Atlas of Language Structures) を使用し,格の数と比較構文の世界地図を示す.特に欧州地域とオセアニア地域,そして東アジア地域の言語の振る舞いを概観する.この調査を通して,言語構造の多様性を示しつつ,その根底に存在する普遍的な文法基盤を機能的・認知的な観点から説明することを試みる.

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長谷川 真吾
量子計算機時代における形式言語の応用に関する研究

現代のネットワーク社会において,公開鍵系暗号技術はその安全性を確保するために必要不可欠な技術となっている。これらの暗号技術は困難とされる整数論的問題にその安全性を依存しているが, 1994年にShorは量子計算機の実用化によって現在の暗号技術が破綻するということを示した。本研究では,形式言語をより複雑なクラスに持ち上げるリフティング技術や,従来とは異なる問題の利用により,量子計算機時代においても破綻することのない暗号系の構築を目指す。

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三村 敬之
英語における重名詞句転移構文の左方移動分析

英語では,(1a)で見られるように,文中において新情報を示す目的語名詞句が文末へと移動する現象が見られる.従来,(1a)の重名詞句転移構文は,(1b)の文から重い目的語名詞句を右側へ移動することにより派生されると考えられてきた.
(1) a. John bought for his wife [a beautiful white sweater].
b. John bought [a beautiful white sweater] for his wife.
しかし,本発表では,重名詞句転移構文と同じように文の新情報を担う焦点要素の移動を伴う(2a)の焦点の話題化構文を考察し,両構文において見られるいくつかの類似点を基に,(1a)の重名詞句転移構文は,従来の分析とは異なり,重名詞句の焦点の話題化と,重名詞句以外の旧情報を示す残余部分の話題の話題化 (2b) という 2 種類の左方移動を伴う複合的な構文であると分析する.
(2) a. [JOHN] he called.
b. John, he called.
このように,重名詞句転移構文を2種類の話題化操作が適用された構文であると提案することにより,表面上は文頭・文末といった異なった位置を占める焦点名詞句に関して統一した分析を与えることができる.

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森 奏子
クメール語の 2 種類の命令表現の使い分けに関する機能言語学的研究

本研究では、クメール語の命令表現に多用される 2 種類の文末詞phoongとcohを取り上げ、その使い分けを明らかにする。まず、単独用法において、phoongは「話し手が影響を受ける行為」に用いられ、coh は「聞き手のみが関与する行為」に用いられることを例証する。続いて、両者の連結用法phoong cohの意味が、phoong とcohの意味の総和ではなく、ひとまとまりで命令を表す文末詞としての機能を獲得していると考えられることを述べる。

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森本 智
主節動詞句の処理が名詞句内部の統語処理に与える効果

修飾語句を主名詞の前に置く日本語を母語とする中学生高校生は、英語の後置修飾を習っていてもJohn broke the car I bought. とすべきところを *John broke I bought the car. などとすることが多い。英語で関係節 ('I bought') を主名詞  (' the car' )の前に置くと,主節の動詞 ('broke') と目的語 ('the car') が引き離されるという処理上の不利益(コスト)を認識させることによって,後置修飾の習得を促す可能性を探る。

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若生 正和
過去時点の副詞と共起する韓国語動作継続相形式‘-ko issta'の機能言語学的分析

韓国語の「動作継続相(進行相)」を表すアスペクト形式‘-ko issta''は「パーフェクト」のようにふるまう場合がある。メトニミーによる主語解釈の二重性が‘-ko issta'の意味を「反復相」と「パーフェクト」のどちらでも解釈可能にすると考えられる。本研究では過去時点の時の副詞と‘-ko issta'が共起する用例を提示し、パーフェクトとして機能する場合があることを改めて証明する。また、存在動詞由来のアスペクト形式が反復相を経由してパーフェクトの意味を獲得する可能性を論じる。