WEB 対応 授業支援システム WebOCM[ウェブ・オーシーエム]の設計と第二言語習得への応用
細谷行輝 (osaka university)
【大学における外国語教育改革】
  1. 理念と実践、内容と形:理念と内容の至上主義から、実践と形に重きをおいた 実質的な改革(「内容から形」ではなく、「形から内容」を変える試み」)
  2. 教育改革の「形」としての WEB(e-Learning):WEBというシステムを介して教育改革を目指す
【前提:デジタルの主たる長短】
  1. 長所:情報の共有化(知のネットワーク化)が可能
  2. 長所:データの共有・再利用が可能
  3. 長所:データの修正が容易に可能
  4. 短所:デジタルデータの操作に時間と技能が必要
  5. 短所:高いセキュリティ意識が求められる
【WEBによる教育改革を支える「WEB対応授業支援システム」に求められる観点】
  1. 大前提:目下のところ、e-Learning(WEB授業)が個別の対面授業に優ることは難しい
  2. 長年の歴史を有する「対面授業」の長所を評価しつつ、教育的見地から、WEB上に 「対面」に代わる新たな文化圏、価値観を形成する必要がある(知のネットワーク化)
  3. WEBによる教育改革を実現するためには、理系のみならず、文系の教師も容易に 参画できなければならない(究極の操作性)
  4. 「WEB対応授業支援システム」はあくまでも教育「支援」であって、この種の支援システム を利用したがゆえに、教師の負担が増えたり、例えば、デジタル教材作成における教師の 自由度を妨げてはならない(少ない制約)
  5. アナログと異なり、デジタルの利点を最大限活用する(データの共有・再利用)
  6. ハードコピーによる教材(アナログ)からデジタル教材へ移行することに より、漸次、デジタル教材に対する修正要求が高まってくるが、この種の 要求を究極の操作性で満たす必要がある(教材のカスタマイズ性)
  7. インターネットを活用する観点から、少なくとも、辞書機能の装備が望ましい(エキスパートシステム)
  8. 多国語対応(グローバル化)
  9. e-Learning による学生をアクティブにする機能(アクティヴェーション)
  10. 教師の負担を極限にまで軽減する機能と操作性の実装(ユーザフレンドリー)
【WEB対応授業支援システム「WebOCM」の現状と可能性】】
<現状:WebOCMの特筆すべき機能>
  1. エキスパートシステムの装備
    • 英独の辞書をサーバ側に実装
    • ダイナミックリンク機能:リンクが一切無いにも拘わらず、任意の語句に反応する。
    • ワンタッチ辞書機能:ダイナミックリンク機能は、外国語の辞書、法令集等に応用 可能であり、とりわけ外国語のホームページの内容を理解するうえで有用。具体的に は、どんなホームページ(ただし、IEに制限)であれ、例えば、未知の単語をダブル クリックするだけで、その意味情報を、サーバの辞書データから瞬時にクライアン トに返す。
  2. 多機能コミュニケーションツール「新世界」の装備(知のネットワーク化)
    • リアルタイムメッセージ通知機能
    • リアルタイムメッセージポップアップ機能
    • メッセージセレクト機能
    • メール通知機能
  3. テスティングツールの装備
    • XMLベースでありながら、XMLを利用者に意識させないWEB上のエディタを用いて、 自在にテストを作成することができる
    • 作成されたテストは、XMLベースのファイルであり、そのまま共有したり、WebOCMに 装備されているXMLエディタにて、修正も容易に可能。
    • カンニング防止機能の実装(テスト時、学生は、他のソフトを一切閲覧できない)
  4. 「ダイナミックメニュー」の装備
    • 通常の授業支援システムでは、そのシステムでの制約の下、ホームページ教材 を作成するが、こうした制約が教師の教材作成意欲を大いに殺いでいる。
    • WebOCMでは、ホームページ教材は全く自由に作成可能であり、単なるリンク教 材としての登録に留まらず、この自由に作成されたホームページ教材に、WebOCM と連携するサーバ機能をきわめて簡単な操作で実装する「ダイナミックメニュー」 が装備されている。
    • これにより、全く制約無く、例えば、ワードで私的に作成したドキュメントファ イルを、自動でHTMLに変換してホームページ教材とし、これをダイナミックメニュー 化することにより、教材の学習履歴やテスティング機能との連携を極めて簡単に 実装できる。
  5. 出席管理システムの装備
    • ログイン時間のみならず、ログアウト時間も記録し、出席履歴、授業時間外の自 習履歴等、も閲覧可能。
  6. 成績管理システムの装備
    • テスティングの結果を管理するのみならず、出欠記録や、新世界への書き込みメッ セージの質的評価も加えて、総合的に成績評価をする。
  7. 究極の操作性
    • 教師の負担となるクラス管理等、極めて簡単に誰もが実践できるユーザフレンドリー な操作の実装。(できれば会場にてデモを実施する)
<WebOCMによる第二言語習得への応用可能性>
  1. 前提:e-Learning を実施する文系教師を増やす必要があり、そのためには、極限にまで、 ユーザフレンドリーなWEB対応授業支援システムを使う必要がある。e-Learning を実施する 教員の数が増えれば、作成された、テストや教材の再利用等、デジタルの特性を十分に活用 することができる。WebOCMでは、「文系の教師にマウス操作とワープロ操作技能以上を求め てはならない」との考え方の下、文系の教師の負担を極限にまで軽減するコンセプトを持っ ている。
  2. キーポイント:外国語習得における e-Learning の成果は、教師、学生の両者を如何に刺激するか、に依存する。
    • 学生側:いつでもどこでも授業を受けられる環境のみならず、学生自身が、リアルタイムでダイナミックに授業に参画する仕組みが必要
      • WebOCMによる自動弱点克服機能の活用
        • ワンタッチ機能により辞書検索された単語(学生の弱点であろう語彙)は、全て、システムに自動的に記録可能で あるため、これらの単語群のみを集中的に学習させるため、学生自身が、自ら、リアルタイムでテスト問題を作成する ことにより、システムの自動採点結果を受け、自らの弱点を克服する(コンピュータ環境での授業では、学生の自主性 に任せる部分が多いが、現実には、 受身のまま、徒に時間を浪費する学生も少なくないため、学生を授業に積極的に参画させるために必要)。また、学生 同士で、自ら作成したテストを公開し合うことにより、学習意欲を刺激する。
    • 教師側:いつでもどこでもWEBを介して授業の準備を進められるのみならず、教材の自由度を保障する仕組みが必要。
      • WebOCMによる「ダイナミックメニュー」の活用
        • 市販、その他のホームページ教材には、遠からず、飽きが来る。デジタルの長所を活かし、教材等、データの共有化 が進む一方、教師の存在意義をアピールため、独自の教材、独自のテスティング等、が求められるようになるであろう。 WebOCMでは、テスティング機能により簡単に独自のテスト作成が可能であり、これに加えて、自ら作成したホームページ 教材に、ダイナミックメニューを組み込むことにより、簡単にサーバ的機能(教材の学習履歴とテストとの連動)を付加 することができる。つまり、文系の教師が、例えば、ワード等を使って、独自のホームページ教材を作成しても、 単なるスタティックなホームページに留まり、当該ページがどのように使用され、どの程度理解されているか、等を計る 手段が無い。ところが、「ダイナミックメニュー」により、サーバの知識は全く不要で、自作のページにサーバ的機能を 簡単に付与することができる。
        • WebOCMのエキスパートシステムにより、教材作成時、リンク情報を減らすことができる。つまり、WebOCMの エキスパートシステムに、リンク情報(キーワードとその関連情報)を一度登録しておくだけで、重複した記述を避ける ことができるとともに、これらのリンク情報の蓄積が、他のWebOCMでも共有でき、知のネットワーク化に資することが できる。
    • 外国語の翻訳支援機能「意味形態サポーター」(含:構文解析、意味解析)
      • WebOCMに実装が予定されているこの「意味形態サポーター」を使うことにより、教材等にてリアルタイムに表示 される外国語の文型構造を意識させたり、 英作文、独作文等の添削をある程度自動化させることができる。
      • 上記「意味形態サポーター」には、翻訳のレベルを設定することにより、学生と「意味形態サポーター」とを適宜競合させる ことができるようになるので、パッシブな学生も、「意味形態サポーター」の翻訳技能を理解して、「意味形態サポーター」と ともに成長する、または、凌駕するべく刺激することが可能となる。
  3. パーツとしてのホームページ教材のオープンソース化
    • デジタル教材を利用した外国語の授業では、従来のような紙ベースのスタティックな教材とは異なり、修正が容易であるため、 教師のユニークさを盛り込むことが可能となる。ただし、そのためにも、教材を一から作り上げるのではなく、必要な部分がパーツとして提供されることが望ましい。WebOCMは、外国語CU委員会のサポートを受け、教材のオープンソース化をも目指している。具体的には、 オープンソースの教材を、WebOCMから簡単にアクセスできる機能の実装も予定している。
  4. 結論として、WebOCMによる第二言語習得への応用可能性は多種多様であり、教育においては、いかなる場合も、教師の熱意が最も重要であるが、WebOCMでは、これに加えて、教師と学生の両者のモティベーションを刺激する有効な仕掛けを絶えず考案していく予定である。
【WebOCM の将来構想】
  1. 教育改革:外国語の教育改革から教育機関一般における教育改革へ
    • 具体的には、WebOCMという「形」、ツールから入って、教育内容そのものの 改革を目指す。
  2. 知のネットワーク化
    • WebOCMサーバは、他のWebOCMサーバと連携可能であるため、任意のWebOCMを、全国共通のあるいは世界共通の サーバに設定することにより、ワンタッチで、知の共有に貢献したり、ここから情報を得ることが可能となる。
  3. グローバルスタンダードの確立
    • 日本から世界へ:e-Learning を実質的に支援するソフトとして、アジアも含め、日本から世界に向けて発信することを試みる。
      • 国産であるため、教育界における日本の特殊事情をも細やかに反映可能。
    • オープンソース(教育機関に無料公開)
    • 学務情報等、外部WEBサーバとWebOCMが連携するためのAPIの設定
  4. WebOCMの支援体制
    • 外国語CU委員会
    • e-Learning 教育学会にて、WebOCM のバージョンアップ構想を練る
    • WebOCMに関心のある大学間で連携を強化し、具体的なサポート体制を協議する
    • WebOCMの改良のための予算措置を図る
    • WebOCMを普及推進するための組織を整える