『国際文化研究』創刊によせて 

東北大学国際文化学会会長 佐々木肇

東北大学大学院国際文化研究科は、国際的な地域文化および文化交流に関する学際的、萌芽的な教育研究を行い、国際化の進展に対応し て、わが国の内外で活躍できる優れた人材を養成することを目的として設置されました。この新しい研究科が取り組む新しい研究分野は「国際文化研究」ともい うべき学問領域で、わたしたちはそれを、「各地域文化の形成・発展・交流についての過去・現在・将来を、現代的・国際的視野から総合的・学際的に考察する 学問分野」と規定しました。

 しかしわたしたちが目指す国際文化研究は、世界的に見てもまだきわめて新しい学問分野で、わたしたちの行いつつある教育と研究はいわば先駆的な意味合い をもつものです。そして国際文化研究というものが複合的な構造をもつことを考えるとき、その研究には、人文・社会・自然科学の諸分野に対応する個別専門科 学の伝統的方法や枠組みを越えた、新しい学問の方法や概念、総合的な視野に立つ学際的な研究のための確固たる組織、体制、機関などが必要であります。

 東北大学大学院国際文化研究科が発足して間もなく、国際文化研究科の教官を中心に、国際文化研究科の学生諸君や国際文化研究に関心を持つ人たちのため に、研究成果を発表できる学会を組織する話し合いと準備が始まりました。そして本年6月4日に東北大学国際文化学会の設立総会が開かれ、本学会が正式に発 足致しました。

 東北大学国際文化学会設立に当たって、幸いなことにウィスコンシン大学のイーハブ・ハッサン博士をお招きすることができました。当日はハッサン博士の 「ナショナリズムと学問−多文化世界における知識人」と題する記念講演に続いて、会員となった学生と教官による7つの研究発表が行われ、学会としての活動 がスタート致しました。

 今から30年前、わたしがアメリカ研究の道に進むきっかけを作ってくださったペンシルベニア大学のロバート・E・スピラー博士は、当時まだ新しい学際研 究の学問分野であった「アメリカ研究」の発展にとって、アメリカ学会という学会の設立と、アメリカ研究の研究成果を発表するいくつかの研究誌の発刊が、大 きな役割を果たしたと語っておられました。

 東北大学国際文化学会の設立に続いて、このたび創刊の運びに至った『国際文化研究』が、わたしたち会員一同が共に歩み始めた「国際文化研究」のこれから の発展にとって、意義ある第一歩を記すものであることを、心から願っております。そして東北大学国際文化学会が、日本の、そして世界の国際文化学会へと広 がり、この学会の機関誌であるこの『国際文化研究』が、やがて世界の国際文化研究を照らす「たいまつ」となる日が来ることを期待しつつ、創刊に寄せる挨拶 とさせていただきます。
*上の文章は1994年12月26日発行の『国際文化研究』創刊号に掲載されたものです。

創刊号
創刊号(1994年12月26日発行)