講演要旨: 国立大学に勤めて6年:中国の大学との比較を中心に
金 敬雄
(言語文化交流論) もどる



1 自己紹介
私は国際文化研究科の1期生で、言語文化交流論講座の所属。博士課程2年終わる時点(平成9年4月)で福島大学行政社会学部に助手として赴任し、今日に至っている。
1992年に来日する前、中国の河北大学で6年間教員として勤務。
2 研究環境
赴任して、まず嬉しかったことは研究環境のすばらしさ。研究室は個室で、年間50万ぐらいの研究費。中国では、共同研究室はあるが、個人の研究室はない。また、研究費は研究プロジェクトを委託される以外は、通常の研究費はなく、新聞代しかない。
3 大学の自治について
日本の大学では、教員、職員、学生の三者自治を重んじる。特に、教員組織である「教授会」、「評議会」は学部、大学に関する重要事項を決定する機関となっており、民主性が高い。入試、教務、学生指導をはじめ、学内のほとんどの運営業務に教員がかかわる。大学の教員は研究と教育以外に行政能力も求められている。
中国の大学には「教授会」に相当する組織がない。入試、教務、学生指導、国際交流などはすべて専門の職員が担当し、教員はほとんどかかわらない。
ちなみに、中国の大学では専門職員を教員と同じように「老師」(「先生」という意味)と呼ぶ。そのため、中国から来る留学生の多くは、日本の大学の専門職員を「先生」と呼んでいる。
4 学生自治
日本の大学では、教員は学生たちの意見を尊重する傾向が強いと感じた。合宿ガイダンスの主催などは学生が中心となって行い、教員はサポート役となっている。
中国の大学では、「学生会」という組織はあるが、日本の大学のような学生自治はほとんどない。
5 教員・学生による自主性
日本の大学では、教員は授業の内容、運営を自分の研究と合わせて、自主的に決めている場合が多い。また、学生は自分の興味などに即して、履修科目を選択することができるし、その選択肢も幅広い。
中国の大学では、特に学生のサイドから見たとき、選択履修は非常に少ない。ほとんどは必修科目となっており、大学から与えられたメニューをこなすのが特徴である。また、ゼミナール式の授業も少なく、ほとんどが講義科目である。だから、中国で大学教育を受けた学生が、日本で大学院に入ると、まずぶつかる難題は演習とレポートの作成であろう。
6 大学の教職員の勤務態勢
日本の大学では、学生が休みに入っても、教職員は勤務する。
中国の大学は、学生が休みに入ると、教職員も当番する人以外は、みな休みに入り、大学組織がほとんど機能しなくなる。
7 学生の勉強姿勢
日本の大学生は、履修科目を自分で選択しているわりには勉強意欲があまり伝わってこない。遅刻、欠席は日常茶飯事。留年する学生も多い。
中国の大学では、遅刻、欠席は稀にしかない。また、留年は病気など特別な事情があるときだけで、基本的に4年で卒業する。
8 独立行政法人化
「独立行政法人化」による国立大学の変化について危惧を感じている。